MakinoYo

FREELANCE JOURNALIST

座らない!   成果を出し続ける人の健康習慣

訳者あとがき(前半)――健康本を超えた人生の指南書

 経営者は仕事中に運動して汗を流し、社員に対して模範を示せ――これは本書の著者トム・ラス氏のメッセージです。
 日本で社員が勤務時間中にスポーツジムへ抜け出したらどうなるでしょうか。「心身ともに健康を維持して生産性を高めるため」と言い訳しても、誰も納得してくれないでしょう。褒められるどころか大目玉を食らうのは間違いありません。
 何しろ、サービス残業や有給未消化などを当然視する「エコノミックアニマル」体質が今も根強いのが日本なのです。最近では「ブラック企業」問題も深刻です。過労死は海外でも広く知られ、「karoshi」が英語として定着しているほどです。
 それだけにラス氏のメッセージは日本人ビジネスマンには衝撃的に聞こえるのではないでしょうか。本書のキーワードの一つはウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態)。過労死はそれとは対極にあります。
 アメリカでも働き蜂文化は残っていますが、ウェルビーイングへ軸足を移す動きはどんどん広がっています。日進月歩の変革が起き、とりわけ激しい競争が繰り広げられているIT(情報技術)業界も例外ではありません。
 たとえば米グーグルの本社キャンパス「グーグルプレックス」。広大なキャンパス内にはスポーツジムがいくつも設置され、昼間から社員が汗を流しています。一方で、ジムの外はまるでサイクリング場。会社提供の自転車が至る所に置かれ、移動時に社員が自由に乗り回しているのです。
 経営者は社員に模範を示しているのでしょうか。その点では米アマゾンの最高経営責任者(CEO)兼創業者のジェフ・ベゾス氏が先駆者です。どんなに忙しくても最低8時間の睡眠を自分に課していることで知られています。
 ベゾス氏は1999年にウォールストリート・ジャーナル紙の取材に応え、「8時間眠ると、注意力や思考力の面で断然調子がいい。何よりも一日中気分がいい」と語っています。「眠る時間も惜しんでがむしゃらに働く」という労働観を否定して仕事の生産性を高め、IT業界の覇者になったわけです。
 一見すると、本書は健康な生活を送るための実用書です。実際は単なる健康本の域を超えています。活力アップで仕事を効率的に片付けつつ、幸せで充実した人生を送るための指南書といえます。だからこそウェルビーイングがキーワードとして出てくるのです。

 本書に説得力があるのは、個々のアドバイスが漏れなく最新の研究で裏付けられているからです。もっぱら個人的な成功談を基にして書かれる啓発本とは一線を画しています。本書の土台になっている学術論文・記事は参考文献一覧として巻末にまとめられ、ウェブサイト上で定期的に更新されています。
 本書には興味深いアドバイスが詰まっています。「砂糖は毒物」「トマトで食事焼け」「座り病は世界的疫病」「ウオーキングデスクの活用」「最高のワクチンは睡眠」「睡眠薬よりも運動」――。すべて科学的データで裏付けされているとなると、重みが違ってきます。
 個人的な体験を基にしてアドバイスするのは比較的容易です。一方で、膨大な科学的データを調べたうえでアドバイスするには目利きとしての才覚が欠かせません。米ギャラップ社で長年コンサルタントとして経験を積んだラス氏は、現代的表現を使えば「キュレーター」といえます(世論調査で有名なギャラップ社は、企業向けコンサルティングを広範に手掛けています)。
「はじめに」で本人も強調しているように、ラス氏は医者ではないし、栄養学や運動生理学、睡眠障害の専門家でもありません。ですが、心理学の学位を持ち、人間行動学を専門にする研究者です。16歳でがんを告知され、健康に人一倍の関心を寄せています。目利きとして学術論文など関連文献を大量に読み込み、役立つ情報を厳選してくれています。
 本書最大の特徴は食べる・動く・眠るの3要素を統合した点です。だからこそ本書の原題は「イート・ムーブ・スリープ(食べる・動く・眠る)」なのです。3要素はそれぞれ密接に絡み、相互に影響し合っています。必然的に本書の内容は医学や心理学など多岐に渡り、学際的になります。その意味からも本書は目利きを必要としたわけです。

目次

本書を読む前に――「健康経営」が企業を変える
  職場は最大の「ソーシャルネットワーク」
  健康・ウェルビーイング文化を築く
  職場の上司が変化を生み出す
  ウェルビーイングで生産性向上

はじめに
  食べる・動く・眠る
  人生の転機
  小さな選択がすべてを変える
  第一歩を踏み出すための30日計画
  食べる・動く・眠るの方程式

第1章 三つの基本要素
  カロリーよりも食事の質が大事
  「座り続けること」が最大の敵
  成果を出したかったらもっと寝る

第2章 小さな選択が大きな変化を生む
  その一口で健康が決まる
  座るのは喫煙より体に悪い
  睡眠不足はあなたを別人にする

第3章 毎回正しい選択をする
  炭水化物・タンパク質比率で選ぶ
  家の中の食べ物を配置換えする
  歩きながら仕事をしてみる

第4章 良い習慣を築く
  砂糖は老化を促進する
  代替甘味料は解決策にはならない
  心と体のため20分ごとに2分歩く
 
第5章 自己免疫システムを強化する
  表面の色で食べ物を判断する
  風邪と睡眠の密接な関係
  睡眠では質が量を凌駕する

第6章 生活習慣は遺伝子を上回る
  新しい遺伝子を身にまとう
  測定するだけで活動的になる
  毎日8キロ歩く

第7章 もっと活力が出る生活をする
  パンやライスを避ける
  大皿料理で食べる量は10%増
  運動後も脂肪は燃え続ける

第8章 タイミングが肝心
  空腹時は悪食になる
  早食いで肥満リスクは2倍
  運動後は12時間気分が良い

第9章 応急措置
  最初の注文が「アンカー」になる
  体の両側を使う
  照明でメラトニンを調整する

第10章 賢い選択
  タンパク質に優先順位を付ける
  友人にジャンクフードをおごらない
  短期的な目標を見いだす

第11章 健康的に仕事する
  ウオーキングミーティングの効用
  オフィス机での食事は危険
  睡眠不足は泥酔状態と同じ

第12章 きっぱり断ち切る
  捨てたほうがいい食べ物
  友人のダイエットを手助けする
  二度寝にはメリットがない

第13章 神話を打ち砕く
  パンよりはパターのほうが健康的
  加工肉とジャガイモをやめる
  寝室は冷やす
  
第14章 健康は自宅から始まる
  お皿のサイズと色で痩せられる
  自宅を中心に新しい習慣を築く
  家族でしっかり眠る

第15章 早めに手を打つ
  「おとり」に引っ掛からない
  運動中の楽しさを思い出す
  記憶するために眠る

第16章 しゃきっとする
  高脂肪食は仕事の敵
  学んだ後の運動で記憶が定着
  規則的な運動は睡眠薬より効果的

第17章 期待に沿う
  食欲を削ぐあだ名を付ける
  有機栽培は健康を意味しない
  目標を周りに公言する

第18章 良い夜を過ごす
  朝は豪華に、夜か簡素に
  テレビ視聴は寿命を縮める
  就寝前の1時間を聖域にする

第19章 物事をとらえ直す
  ドライフルーツは果物ではない
  商品名やパッケージにだまされない
  眠るときには雑音を流す

第20章 日々のルーティンを調整する
  加熱法が食べ物の良しあしを決める
  長距離通勤は離婚への道
  サマータイムで寿命が縮む

第21章 今を生きる
  「腐るスピード」で食材を判断する
  スマホ姿勢は体に負担
  ストレスは睡眠を台無しにする

第22章 究極の老化防止法
  トマトで「食事焼け」しよう
  一歩ごとに若返る
  睡眠があなたの見た目を決める

第23章 健康的に意思決定する
  健康的なものから食べる
  人間は実は「運動中毒」
  レム睡眠はストレスを軽減する

第24章 自己責任
  お菓子は一握りにとどめる
  1日5分だけでも外に出る
  続けるために背中を押してもらう

第25章 予防策
  減量でがんを撃退する
  必要なのは運動の処方箋
  二つの数字を暗記する

第26章 道を切り開く
  お店で正しい食材を選ぶ
  運動で脳と腸をきれいにする
  一晩眠るだで正しい判断ができる

第27章 新しい習慣を身に付ける
  ケーキの代わりにベリーを食べる
  ご褒美はほどほどにして楽しむ
  毎日の行動の運動効果を知る

第28章 新しいトレンドをつくる
  ブロッコリーは新しい流行
  コーヒー、お茶、水にこだわる
  ネクタイとハイヒールをやめる

第29章 すべてはつながっている
  自分特有の健康リスクと闘う
  減量すれば安眠できる
  理想の睡眠は8時間

第30章 まとめ
  ほんの一口を侮らない
  運動を習慣化する
  睡眠は未来への投資

おわりに――ワンセットでやる

行動を起こす――新アプリ「ウェルビー」

著者あとがき――本書執筆のためにギャラップ社を辞めた

訳者あとがき――「健康の次元」が変わった

参考文献